コンビニの冷蔵ケースで、「常識」が壊れていた
コンビニの冷蔵ケースで500ml缶を手に取ったら、たいていビールかチューハイのお酒だ。サッポロ、キリン、アサヒ——缶のフォーマットは長らく「アルコール飲料の言語」として機能してきた。だから、同じ形の缶が「水です」と言ってきたとき、少し頭がバグった。
ロッテが2025年9月にドン・キホーテで先行発売し、2026年5月5日から首都圏のセブン-イレブンで本格展開を開始した「THE DAY」は、ナチュラルミネラルウォーター(480ml缶)とスパークリングウォーター(500ml缶)の2種。中身はただの水なのに、赤と黒のコントラストにゴールドのアイコンが輝く缶は、どう見てもビールの棚に並んでいてもおかしくない貫禄をしている。
「缶=酒」という常識を、大きな声を上げずに、静かに壊しにきた——それがTHE DAYのたたずまいだ。
THE DAYの基本スペック——値段、成分、どこで売っているか
物語の前に、実務的な情報を先に置いておく。「結局いくらで、何が入っていて、どこで買えるのか」——たぶん、いちばん知りたいのはそこだ。
| 項目 | ナチュラルミネラルウォーター | スパークリングウォーター |
|---|---|---|
| 容量 | 480ml(アルミ缶) | 500ml(アルミ缶) |
| 価格 | オープンプライス(メーカー希望小売価格なし)。コンビニ店頭の実勢は税込170円前後 | |
| 種類別 | ナチュラルミネラルウォーター | 炭酸水(強炭酸) |
| 原材料名 | 水(鉱水) | 水(鉱水)/炭酸ガス |
| 採水地 | 南アルプスを源流とする大井川水系の伏流水 | |
| 硬度 | 67(軟水) | 非公表(水源は同じ) |
| カロリー | 0kcal(糖類・カフェインなし) | |
| パッケージ | 赤×ゴールド | 黒×ゴールド |
| 販売店 | 首都圏(東京・神奈川・千葉・埼玉)のセブン-イレブン/ドン・キホーテ/Amazon/TikTok Shop | |
| 発売日 | 2025年9月16日(先行発売)/2026年5月5日(セブン-イレブンで本格展開) | |
※ 価格はオープンプライスのため店舗により異なる。カロリーは原材料が水(と炭酸ガス)のみであることによる。硬度67はロッテがナチュラルミネラルウォーターについて公表している数値で、スパークリングの硬度は公表されていない。
正直に言えば、170円前後という値段は「水にしては高い」。500mlのペットボトル入りミネラルウォーターは、コンビニでもおおむね100〜130円で買える。THE DAYはそれより4〜7割ほど高い計算になる。中身は水なのだから、コスパで選ぶ商品ではない、とはっきり言っておきたい。
ただ、この価格差が何に対して払われているのかを考えると、話は少し面白くなる。
「水にワクワクしたことがあるか」という問い
正直に言うと、筆者は最初「ロッテが水?」と二度見した。チョコパイとコアラのマーチで育った人間にとって、ロッテはお菓子とアイスの会社だ。飲料参入それ自体は珍しくないが、飲料のなかでもよりにもよって「水」を選んだ意外性は、ちょっとした違和感として残った。
しかしよく考えてみると、その違和感こそが、この商品の本質かもしれない。
日本のミネラルウォーター市場は約4,500億円規模(富士経済「2024年 清涼飲料マーケティング要覧」)で右肩上がりの成長を続けている。渋谷トレンドリサーチの調査によると、Z世代が好きな飲料カテゴリーの1位は「水」だ。需要は間違いなくある。でも、どこか「水を選ぶのはあたり前」「水は機能で選ぶもの」という空気が漂っていなかっただろうか。
「成分がいい」「環境に配慮している」「安心・安全」——既存のミネラルウォーターは、概してニーズ(必要性)に応える商品が中心だった。ウォンツ(欲求・ワクワク感)を満たす水、つまり「気分が上がる水」が存在していなかった。THE DAYが提案するのは「デイリープレミアムウォーター」という新しいカテゴリだ。機能を訴えるのではなく、気持ちに訴える。
なぜロッテが、水を作ったのか
THE DAYは、株式会社ロッテ(東京都新宿区、代表取締役社長執行役員:中島英樹)のウェルネス事業参入第1弾だ。「こころ動かす体験」をつくることを企業理念に掲げてきたロッテが、お菓子やアイスという枠を超えて「ウェルネス」という領域に踏み出した、その第一歩がこの水だった。
お菓子やアイスは、食べる体験それ自体に情緒的な価値がある。チョコパイを食べる瞬間、コアラのマーチのイラストを見る瞬間——「楽しい」「嬉しい」「ほっとする」という感情が、商品に乗っている。その感性を、水という「機能的な商品」に持ち込めるか。それがロッテにとっての問いだったのだろう。
「気持ちアガる水」というコンセプトは、ロッテがお菓子で培ってきた「体験設計」の文脈で読むと、なるほど納得がいく。水は水だが、「THE DAYを飲む体験」は水以上のものを提供しようとしている。
"あえて"アルミ缶を選んだ理由
この商品でもっとも印象的な選択のひとつが、ペットボトルではなくアルミ缶を採用したことだ。日本のミネラルウォーターの主戦場はペットボトルで、缶入りの水は非常に珍しい。なぜわざわざ缶にしたのか。
理由はいくつかある。まずサステナビリティ。アルミ缶はペットボトルに比べてリサイクル性に優れており、海洋プラスチック問題(マイクロプラスチック汚染)のリスクが低い。プラスチックの問題が社会的に意識されるなか、飲料容器の選択自体がメッセージになる。
機能的にも缶には強みがある。アルミの遮光性は光による風味劣化を防ぎ、熱伝導率の高さはキンキンに冷えた体験を生む。「冷たさ」を最大限に楽しめる容器として、缶は理にかなっている。
そして、海外トレンドという文脈もある。アメリカでは「Liquid Death」というブランドが、2019年の創業から急成長を遂げた。「Mountain Water」をキャッチフレーズに、モンスタードリンクのようなパンクなデザインの缶に山岳水を詰めて販売するこのブランドは、「水にかっこよさを持ち込む」という発想を実証してみせた。THE DAYが狙うのは、日本版のそのような「缶入りウォーターブランド」としてのポジションだ。
赤と黒のコントラストに、ゴールドに輝くアイコン。「持っているだけで気分が高まる」ことを意図した設計は、水の容器というよりは、ファッションアイテムに近い発想だ。
そもそも、なぜ日本に「缶の水」がなかったのか
ここでひとつ、気になっていた疑問を片づけておきたい。ビールも、コーヒーも、炭酸飲料も缶で売られているのに、なぜ水だけ缶入りがほとんど存在しなかったのか。技術的にできなかったわけではない。理由は、日本の飲料容器の歴史のなかにある。
日本でペットボトル入りの清涼飲料が発売されたのは1982年2月のこと。食品衛生法施行規則等の改正で、清涼飲料水の容器としてペットボトルの使用が認められたのがきっかけだった。軽くて、落としても割れず、そして何より再栓できる——ガラス瓶や缶にはない性質を持った容器の登場だった。
ところが、しばらくのあいだ小さいサイズは店頭に並ばなかった。ポイ捨てや廃棄物の増加を懸念する声を受けて、業界が1リットル未満のペットボトルの製造を自主規制していたからだ。この自主規制が解かれたのが、1996年4月1日。容器包装リサイクル法の成立によって廃棄物処理の社会的な受け皿が整ったことが背景にある。全国清涼飲料工業会(当時)が規制を終了したその日を境に、500mlや350mlのペットボトルがコンビニと自販機の棚を一気に埋めていった。
ここが分岐点だった。「持ち歩いて、少しずつ飲んで、キャップを閉めて、また鞄に戻す」——日本人の水の飲み方は、小型ペットボトルの解禁とほぼ同時に完成した。そしてその飲み方は、缶では絶対に成立しない。缶は一度開けたら閉められないからだ。
結果として、「水はペットボトル」「缶は一気に飲みきるもの(ビール、炭酸、コーヒー)」という住み分けが、30年ちかく日本の冷蔵ケースを支配してきた。缶入りの水がなかったのは、需要がなかったからではなく、缶という容器が日本の「水の飲み方」に合っていなかったからだ。
だからTHE DAYがやったことは、「缶で水を売る」という単純な話ではない。ペットボトルが30年かけて作った「ちびちび飲む水」とは別に、「その場で開けて、冷たいうちに飲みきる水」という飲み方を持ち込もうとしている。持ち歩きには向かない。でも、そもそも持ち歩く商品として設計されていない。
TaiTanという選択——Z世代のインサイト
THE DAYの開発に、ラッパー・クリエイティブディレクターのTaiTan氏が深く関わっている。1993年生まれのTaiTan氏は、ヒップホップグループ「Dos Monos」のメンバーとしても知られ、Podcast『奇奇怪怪』のパーソナリティを務め、TBSラジオ『脳盗』も担当。ACC賞、JAPAN PODCAST AWARDSパーソナリティ賞、FORBES JAPAN 30 UNDER 30 2023にも選ばれた、Z世代のカルチャーシーンで存在感を持つ人物だ。
TaiTan氏がTHE DAYの開発で着目したのは、Z世代のインサイト「自分で自分の機嫌をとる」という感覚だった。何かを頑張った後のご褒美でも、誰かとの乾杯のためでもなく、自分のテンションを自分でコントロールするために何かを手に取る——その行為の受け皿として、水はあり得るのか。
「THE DAY」という名前は、サーファーやスノーボーダーが使うスラングで、「今日は最高だ」という意味を持つ。波がよかった日、雪のコンディションが完璧だった日——特別ではない日常の中の、ひとつのピーク体験を指す言葉だ。TaiTan氏はこんな言葉を残している。「企業側から"気分が最高だよね"というのは押しつけがましい。THE DAYという概念と一緒に広がってほしい」。
「最高だ」と言わずに、「最高」を届ける。この設計思想は、ブランドの名前から缶のデザインまで一貫している。
ソバーキュリアスと「水で乾杯する自由」
THE DAYが狙うもうひとつのポジションに、「ソバーキュリアス(敢えてお酒を飲まない)」との親和性がある。ロッテ公式も「お酒を飲まない・飲めない方々にとっても、日常をポジティブに彩る選択肢」「水による乾杯という自由な選択」を明言している。
飲み会の席で、ビールと同じアルミ缶を持っていれば、場に馴染みつつシラフでいられる。「自分はお酒を飲まない」というアピールをせずに、ただ缶を持って場に参加できる。この「可視化されない選択」という設計は、なかなか考えられている。
黒い缶のほうは「炭酸水」——強炭酸で、割材にもなる
THE DAYには赤い缶(ナチュラルミネラルウォーター)と黒い缶があり、黒いほうの中身は炭酸水だ。500ml缶で、ロッテ自身が「目の覚めるような強炭酸」と表現している。水と同じ大井川水系の水に炭酸ガスを加えたもので、原材料は水と炭酸ガスだけ。当然ながら糖類ゼロ、カロリーゼロである。
コンビニの炭酸水売り場は、いまや無糖炭酸のペットボトルがずらりと並ぶ激戦区だ。そこにあえて缶で殴り込むのは、けっこう分の悪い勝負に見える。ただ、炭酸に限っては缶にはっきりした理屈がある。アルミ缶は完全に光を遮り、ガスもほとんど透過しない。ペットボトルは樹脂の性質上、時間とともに炭酸がわずかに抜けていく。缶入りの炭酸水は、開けた瞬間の強さが保たれやすい。
そしてロッテ公式が明言しているとおり、この炭酸水はお酒の割材としても使える。ウイスキーでも焼酎でも、強炭酸の割材としてそのまま機能する。お酒を飲む人にも、飲まない人にも使い道がある——赤と黒を並べて棚に置く設計は、そのあたりまで計算されている。
ちなみに、缶の炭酸水そのものはウィルキンソンなどが以前から存在するが、コンビニの主戦場はペットボトルに移って久しい。「缶の炭酸水を探していた」という人にとっては、選択肢が一つ増えたことになる。編集部も実際に飲んでみたが、炭酸の強さは看板に偽りなし。味そのものの感想は後述する。
南アルプスの伏流水と、加藤小夏という鏡
水そのものの話もしておこう。THE DAYの水源は、南アルプスを源流とする大井川水系の伏流水。硬度67の軟水で、日本人の口に馴染みやすい口当たりだ。ナチュラルミネラルウォーターは480ml缶、スパークリングウォーターは500ml缶と容量が微妙に異なるのも、それぞれの飲み方に合わせたサイズ設計によるものだ。
新イメージタレントには俳優・加藤小夏氏(1999年生まれ、NHK大河ドラマ『鎌倉殿の13人』出演、ゲーム『SILENT HILL f』主人公・深水雛子役)が起用されている。CMでは「なんでもない1日をハレの日に変える」というブランドメッセージのもと、曇天の中で赤いワンピースの加藤氏がTHE DAYを飲んだあとにけんけんぱをする映像が流れる。晴れた日でもなく、特別な日でもない「なんでもない1日」に、ちょっとした遊びを持ち込む。その軽やかさが、THE DAYの世界観を体現している。
また、ポッドキャスト「加藤小夏が水を飲む〜THE DAY ROOM〜」(YouTube・Spotifyで配信)の初回ゲストはサカナクション・山口一郎氏。音楽、カルチャー、言葉——THE DAYの周辺に集まる人たちの顔ぶれが、このブランドが目指す「気持ちアガる」の具体像を示している。
実際に買って、人に渡してみた
ここからは実物の話をしたい。編集部も会社の最寄りのセブン-イレブンで、赤い缶(ナチュラルミネラルウォーター・480ml)と黒い缶(炭酸水・500ml)を買ってきた。そして、せっかくなので赤いほうを同じチームのトレーニーの女性に「水あげる」と言って渡してみた。
反応が、想像よりずっと面白かった。まったく信じてもらえないのだ。こちらは「水」と言っている。でも目の前にあるのは、赤と黒にゴールドが光る500mlサイズの缶である。どう見てもお酒だ。彼女はしばらく半信半疑のまま缶をひっくり返し、成分表示を確かめて、「ほんとに水なんだ!」と声を上げた。
この十数秒間が、THE DAYという商品のすべてを説明していると思う。「缶=酒」という常識がどれだけ強固に染みついているかを、実物を手渡された人の顔が証明してしまう。パッケージデザインの勝利というより、私たちの側の思い込みの根深さの証明だ。
彼女の感想は「飲みやすかった」。編集部も赤(ナチュラルミネラルウォーター)と黒(炭酸水)を両方飲んでみたので、味について正直に書いておく。
何の変哲もない、シンプルな味だ。ミネラルウォーターのほうは、クセも引っかかりもなく、すっと入っていく。硬度67の軟水という数字と素直に一致する味で、驚きの要素はひとつもない。炭酸水のほうも、公式が言うとおりしっかり強めの炭酸が来るけれど、それ以上でも以下でもない。要するに、普通においしい水と、普通においしい炭酸水である。
味で殴ってくる商品ではない、とはっきり言っておきたい。飲んだ瞬間に「うまい!」と声が出るタイプの飲み物を期待すると、たぶん肩透かしを食う。
ところが——ここが正直いちばん意外だったのだが——その缶を持って外を歩いていた時間は、なんだか少しだけ気分がアガった。金色に光る缶を手に、人ごみを闊歩する。すれ違う人からはたぶん、昼間から堂々と酒を飲んでいる人に見えている。その微妙な後ろめたさと、実際は水だという事実。この居心地の悪さと軽い優越感が混ざった感じは、ペットボトルの水では絶対に発生しない。
つまりこの商品、効いてくるのは飲んでいる最中ではなく、持っている時間のほうだった。ロッテが「気持ちアガる水」と言っていたのは、味の話ではなかったのだ。缶を開ける前の数分間の話だったのだと、飲み終わってから気づいた。
そう考えると、170円前後という値段の意味も変わってくる。この金額は、水そのものにではなく、「持って歩く時間」と「人に渡したときに驚かれる時間」に対して払っている。それを高いと思うか、面白いと思うかは、正直なところ完全に好みの問題だと思う。ただ、水に150円多く払って自分の機嫌が少し上向くなら、それはそんなに悪い買い物ではない気もする。
コンビニの棚に、金色の水が並ぶ日
飲料の歴史を振り返ると、「容器」が文化を変えてきた局面が何度かある。瓶コーラがプラスチックボトルになった瞬間、缶ビールが6缶パックで家庭に届くようになった瞬間、PETボトルのお茶が自販機に並び始めた瞬間——容器の変化は、飲む行為そのものの意味を変えた。
THE DAYが仕掛けているのは、それと似た「容器の再定義」かもしれない。「缶」という言語を使いながら、その意味を「アルコール」から「ちょっと気分が上がるもの全般」へと広げようとしている。
まだ首都圏のセブン-イレブンでの展開が始まったばかりで、この試みが文化として根付くかどうかはわからない。でも少なくとも、「水にワクワクするという体験が選べるようになった」こと自体は、確かだ。
コンビニの冷蔵ケースで、ビール缶の隣に金色の水が並ぶ日がもうすぐ来る。手に取るかどうかはあなた次第だが、"水にワクワクする"という体験が選べるようになったこと自体が、たぶん少しだけ、いい日(THE DAY)だ。