コンビニの冷蔵ケースで、「常識」が壊れていた
コンビニの冷蔵ケースで500ml缶を手に取ったら、たいていビールかチューハイのお酒だ。サッポロ、キリン、アサヒ——缶のフォーマットは長らく「アルコール飲料の言語」として機能してきた。だから、同じ形の缶が「水です」と言ってきたとき、少し頭がバグった。
ロッテが2025年9月にドン・キホーテで先行発売し、2026年5月5日から首都圏のセブン-イレブンで本格展開を開始した「THE DAY」は、ナチュラルミネラルウォーター(480ml缶)とスパークリングウォーター(500ml缶)の2種。中身はただの水なのに、赤と黒のコントラストにゴールドのアイコンが輝く缶は、どう見てもビールの棚に並んでいてもおかしくない貫禄をしている。
「缶=酒」という常識を、大きな声を上げずに、静かに壊しにきた——それがTHE DAYのたたずまいだ。
「水にワクワクしたことがあるか」という問い
正直に言うと、筆者は最初「ロッテが水?」と二度見した。チョコパイとコアラのマーチで育った人間にとって、ロッテはお菓子とアイスの会社だ。飲料参入それ自体は珍しくないが、飲料のなかでもよりにもよって「水」を選んだ意外性は、ちょっとした違和感として残った。
しかしよく考えてみると、その違和感こそが、この商品の本質かもしれない。
日本のミネラルウォーター市場は約4,500億円規模(富士経済「2024年 清涼飲料マーケティング要覧」)で右肩上がりの成長を続けている。渋谷トレンドリサーチの調査によると、Z世代が好きな飲料カテゴリーの1位は「水」だ。需要は間違いなくある。でも、どこか「水を選ぶのはあたり前」「水は機能で選ぶもの」という空気が漂っていなかっただろうか。
「成分がいい」「環境に配慮している」「安心・安全」——既存のミネラルウォーターは、概してニーズ(必要性)に応える商品が中心だった。ウォンツ(欲求・ワクワク感)を満たす水、つまり「気分が上がる水」が存在していなかった。THE DAYが提案するのは「デイリープレミアムウォーター」という新しいカテゴリだ。機能を訴えるのではなく、気持ちに訴える。
なぜロッテが、水を作ったのか
THE DAYは、株式会社ロッテ(東京都新宿区、代表取締役社長執行役員:中島英樹)のウェルネス事業参入第1弾だ。「こころ動かす体験」をつくることを企業理念に掲げてきたロッテが、お菓子やアイスという枠を超えて「ウェルネス」という領域に踏み出した、その第一歩がこの水だった。
お菓子やアイスは、食べる体験それ自体に情緒的な価値がある。チョコパイを食べる瞬間、コアラのマーチのイラストを見る瞬間——「楽しい」「嬉しい」「ほっとする」という感情が、商品に乗っている。その感性を、水という「機能的な商品」に持ち込めるか。それがロッテにとっての問いだったのだろう。
「気持ちアガる水」というコンセプトは、ロッテがお菓子で培ってきた「体験設計」の文脈で読むと、なるほど納得がいく。水は水だが、「THE DAYを飲む体験」は水以上のものを提供しようとしている。
"あえて"アルミ缶を選んだ理由
この商品でもっとも印象的な選択のひとつが、ペットボトルではなくアルミ缶を採用したことだ。日本のミネラルウォーターの主戦場はペットボトルで、缶入りの水は非常に珍しい。なぜわざわざ缶にしたのか。
理由はいくつかある。まずサステナビリティ。アルミ缶はペットボトルに比べてリサイクル性に優れており、海洋プラスチック問題(マイクロプラスチック汚染)のリスクが低い。プラスチックの問題が社会的に意識されるなか、飲料容器の選択自体がメッセージになる。
機能的にも缶には強みがある。アルミの遮光性は光による風味劣化を防ぎ、熱伝導率の高さはキンキンに冷えた体験を生む。「冷たさ」を最大限に楽しめる容器として、缶は理にかなっている。
そして、海外トレンドという文脈もある。アメリカでは「Liquid Death」というブランドが、2019年の創業から急成長を遂げた。「Mountain Water」をキャッチフレーズに、モンスタードリンクのようなパンクなデザインの缶に山岳水を詰めて販売するこのブランドは、「水にかっこよさを持ち込む」という発想を実証してみせた。THE DAYが狙うのは、日本版のそのような「缶入りウォーターブランド」としてのポジションだ。
赤と黒のコントラストに、ゴールドに輝くアイコン。「持っているだけで気分が高まる」ことを意図した設計は、水の容器というよりは、ファッションアイテムに近い発想だ。
TaiTanという選択——Z世代のインサイト
THE DAYの開発に、ラッパー・クリエイティブディレクターのTaiTan氏が深く関わっている。1993年生まれのTaiTan氏は、ヒップホップグループ「Dos Monos」のメンバーとしても知られ、Podcast『奇奇怪怪』のパーソナリティを務め、TBSラジオ『脳盗』も担当。ACC賞、JAPAN PODCAST AWARDSパーソナリティ賞、FORBES JAPAN 30 UNDER 30 2023にも選ばれた、Z世代のカルチャーシーンで存在感を持つ人物だ。
TaiTan氏がTHE DAYの開発で着目したのは、Z世代のインサイト「自分で自分の機嫌をとる」という感覚だった。何かを頑張った後のご褒美でも、誰かとの乾杯のためでもなく、自分のテンションを自分でコントロールするために何かを手に取る——その行為の受け皿として、水はあり得るのか。
「THE DAY」という名前は、サーファーやスノーボーダーが使うスラングで、「今日は最高だ」という意味を持つ。波がよかった日、雪のコンディションが完璧だった日——特別ではない日常の中の、ひとつのピーク体験を指す言葉だ。TaiTan氏はこんな言葉を残している。「企業側から"気分が最高だよね"というのは押しつけがましい。THE DAYという概念と一緒に広がってほしい」。
「最高だ」と言わずに、「最高」を届ける。この設計思想は、ブランドの名前から缶のデザインまで一貫している。
ソバーキュリアスと「水で乾杯する自由」
THE DAYが狙うもうひとつのポジションに、「ソバーキュリアス(敢えてお酒を飲まない)」との親和性がある。ロッテ公式も「お酒を飲まない・飲めない方々にとっても、日常をポジティブに彩る選択肢」「水による乾杯という自由な選択」を明言している。
飲み会の席で、ビールと同じアルミ缶を持っていれば、場に馴染みつつシラフでいられる。「自分はお酒を飲まない」というアピールをせずに、ただ缶を持って場に参加できる。この「可視化されない選択」という設計は、なかなか考えられている。
ちなみにスパークリングウォーター(500ml缶)は強炭酸なので、お酒の割材として使うこともできる。お酒を飲む人も飲まない人も使い道がある商品——このあたりのバランス感覚もうまい。
南アルプスの伏流水と、加藤小夏という鏡
水そのものの話もしておこう。THE DAYの水源は、南アルプスを源流とする大井川水系の伏流水。硬度67の軟水で、日本人の口に馴染みやすい口当たりだ。ナチュラルミネラルウォーターは480ml缶、スパークリングウォーターは500ml缶と容量が微妙に異なるのも、それぞれの飲み方に合わせたサイズ設計によるものだ。
新イメージタレントには俳優・加藤小夏氏(1999年生まれ、NHK大河ドラマ『鎌倉殿の13人』出演、ゲーム『SILENT HILL f』主人公・深水雛子役)が起用されている。CMでは「なんでもない1日をハレの日に変える」というブランドメッセージのもと、曇天の中で赤いワンピースの加藤氏がTHE DAYを飲んだあとにけんけんぱをする映像が流れる。晴れた日でもなく、特別な日でもない「なんでもない1日」に、ちょっとした遊びを持ち込む。その軽やかさが、THE DAYの世界観を体現している。
また、ポッドキャスト「加藤小夏が水を飲む〜THE DAY ROOM〜」(YouTube・Spotifyで配信)の初回ゲストはサカナクション・山口一郎氏。音楽、カルチャー、言葉——THE DAYの周辺に集まる人たちの顔ぶれが、このブランドが目指す「気持ちアガる」の具体像を示している。
コンビニの棚に、金色の水が並ぶ日
飲料の歴史を振り返ると、「容器」が文化を変えてきた局面が何度かある。瓶コーラがプラスチックボトルになった瞬間、缶ビールが6缶パックで家庭に届くようになった瞬間、PETボトルのお茶が自販機に並び始めた瞬間——容器の変化は、飲む行為そのものの意味を変えた。
THE DAYが仕掛けているのは、それと似た「容器の再定義」かもしれない。「缶」という言語を使いながら、その意味を「アルコール」から「ちょっと気分が上がるもの全般」へと広げようとしている。
まだ首都圏のセブン-イレブンでの展開が始まったばかりで、この試みが文化として根付くかどうかはわからない。でも少なくとも、「水にワクワクするという体験が選べるようになった」こと自体は、確かだ。
コンビニの冷蔵ケースで、ビール缶の隣に金色の水が並ぶ日がもうすぐ来る。手に取るかどうかはあなた次第だが、"水にワクワクする"という体験が選べるようになったこと自体が、たぶん少しだけ、いい日(THE DAY)だ。