横浜でカレーと言えば、大抵の人は「ナン」を思い浮かべるだろう

横浜。カレー。この二つの単語を並べたとき、多くの人が連想するのはインドカレーかネパールカレーだろう。関内や伊勢佐木町を歩けば、ナンとバターチキンの看板はいくらでも目に入る。あるいは海軍カレーの横須賀まで足を延ばす人もいるかもしれない。

でも、横浜市営地下鉄ブルーライン阪東橋駅から歩いて5分。大通りを一本入った路地裏に、そのどれとも違う一皿を出す店がある。

アルペンジロー本店。1985年創業、約40年。

山小屋をイメージした木の内装。カウンター10席、テーブル16席。決して大きな店ではない。だが、食べログのカレー百名店を2017年から2024年まで7度受賞。口コミは1,780件を超え、スコアは3.70。横浜のカレー好きで、この店を知らない人はいない。

ここで出てくるのは「スープカレー」のように見える。だが、食べた瞬間にわかる。これはスープカレーではない。アルペンジローという料理だ。

「スープカレーでしょ?」——その認識、最初のひと口で壊れる

正直に言う。自分は最初、この店を舐めていた。「横浜のスープカレー屋さんね」くらいの認識で、たまたま近くに用事があったから寄っただけだ。スープカレーなら札幌で何軒も食べている。どうせ似たようなものだろう、と。

テーブルに置かれた皿を見て、まず黙った。

スープの上に、溶岩石と炭火で焼き上げたステーキが乗っている。サーロイン。表面に炭の香ばしさをまとった分厚い肉が、スパイスの湯気の中にどんと鎮座している。カレーの上にステーキ。この組み合わせを、他の店で見たことがない。

スープをひと口すする。14種類のスパイスと秘伝の出汁を丸2日間煮込んだという液体が、舌の上で爆発する。辛さの奥に、出汁の深い旨味がある。スパイスが鼻腔に抜ける。札幌のスープカレーとは明らかに別物だ。もっと重心が低く、もっと複雑で、もっと「食べた」という感覚が残る。

ステーキを切る。溶岩石の遠赤外線で焼かれた肉は、外はカリッと、中はロゼ色のミディアムレア。その肉をスープに浸して口に運ぶと、スパイスの香りと肉の旨味が渾然一体になる。正直、声が出た。

アルペンジローのステーキカリー——14種のスパイスのスープと炭火焼きステーキ
溶岩石と炭火で焼き上げたステーキが、スパイスの海に浮かぶ。この光景が、アルペンジローだ

なぜ「横浜カリー」であって、スープカレーではないのか

アルペンジローは自らを「横浜カリー」と名乗っている。スープカレーとは言わない。この区別には、ちゃんとした理由がある。

札幌のスープカレーは、さらさらのスープに大きな野菜がゴロゴロ入るスタイルが基本だ。マジックスパイスやスープカリーキングに代表される、あの形。素揚げした野菜の甘みとスパイスの調和を楽しむ。

アルペンジローは違う。14種のスパイスと独自の出汁を2日間かけて煮込んだスープは、札幌のそれよりも濃厚で、出汁の輪郭がくっきりしている。そして最大の特徴は「焼き」だ。溶岩石と炭火を使って肉や野菜を焼き上げ、そのままスープに乗せる。カレーと焼肉が同じ皿の上で出会う。こんなことをやっている店は、日本中探しても他にない。

メニューを見れば、その独自性がさらにわかる。「ジロー鶏」はジューシーな鶏もも肉を炭火で焼いたもの。「やまゆり豚」は神奈川県産のブランド豚。「牛サーロインステーキ」は言わずもがな。どれも「焼き」の技術が入っている。カレー屋なのに、肉の焼き方が異常にうまい。

甘口はハチミツ入りでまろやか、大辛はスパイスの暴力。辛さの選択肢が広いのも、40年間この味を磨いてきた自信の表れだろう。月替わりの「厳選食材カリー」は毎日売り切れ必至。炭火焼きハンバーグカレーも、遅い時間に行くと食べられないことがある。

14種のスパイスと秘伝の出汁を丸2日煮込み、溶岩石と炭火で焼いた肉を乗せる。この二つの技術が一皿の上で交差する場所が、アルペンジロー。

カレー百名店7度受賞。なのに、この店を知らない人が多すぎる

食べログのカレー百名店に7度選ばれている。2017年の初年度から2024年まで、3年連続を含む常連だ。口コミは1,780件を超え、3.70という高評価。数字だけ見れば文句なしの名店。

なのに、東京のカレー好きに「アルペンジロー」と言っても、知らない人が驚くほど多い。神保町のエチオピアやボンディ、下北沢の茄子おやじは知っていても、横浜・阪東橋の路地裏にあるこの店は知らない。場所が悪いのだ。観光客が歩くエリアではない。中華街でもみなとみらいでもない。地元の人たちが日常的に通う、あの独特の空気を持つ阪東橋の路地裏。

でも、だからこそいい。この店には観光地の浮ついた空気がない。山小屋を模した木の内装。カウンターに座ると、目の前で溶岩石の上でステーキが焼かれる音と香りが届く。じゅう、という音。炭火の匂い。スパイスが鍋の中で踊る気配。五感のすべてが「これはただのカレー屋じゃない」と教えてくれる。

土日祝は行列ができる。開店時間に予約を入れるか、早めに並ぶのが吉。平日なら比較的入りやすいが、月替わりメニューとハンバーグカレーは売り切れが早い。狙うなら、開店と同時に行くことだ。

この店に行って「ふつうのカレーだった」と言う人を、まだ見たことがない

好きな店の話をするのは気恥ずかしい。推しを語るときの熱量は、聞いている側にとっては暑苦しいかもしれない。でも、アルペンジローに関してはどうしても黙っていられない。

1985年から40年。横浜の路地裏で、カレーとステーキの融合という独自のジャンルを作り上げた。スープカレーとも横浜の新しい食の潮流とも違う、アルペンジローという唯一無二のカテゴリ。食べログの数字がそれを証明しているが、数字よりも、食べたあとの感覚のほうがずっと雄弁だ。

溶岩石で焼かれたステーキをスパイスのスープに浸す。あの瞬間の多幸感を、まだ知らない人がいるのがもったいない。

横浜に用事があるとき、あるいは何の用事もないとき。阪東橋で降りて、路地裏を歩いてみてほしい。山小屋のような外観が見えたら、そこがアルペンジローだ。カウンターに座って、ステーキカリーを頼む。ただそれだけでいい。

この店に行って「ふつうのカレーだった」と言う人を、自分はまだ一人も見たことがない。

KOTOHAREの視点:アルペンジローは「スープカレー」ではない。14種のスパイスと秘伝の出汁を丸2日煮込んだスープに、溶岩石と炭火で焼いたステーキを乗せる——カレーとステーキの融合という、他のどこにもないジャンルを40年かけて確立した店だ。食べログカレー百名店7度受賞の実力は、ひと口食べればわかる。横浜・阪東橋の路地裏に、わざわざ足を運ぶ価値のある一皿がある。

店舗情報

店名
アルペンジロー 本店
住所
神奈川県横浜市中区弥生町3-26
TEL
045-261-4307
営業時間
11:00〜15:00、17:00〜21:30
定休日
月曜日(祝日の場合は営業、翌火曜休み)
予算
ランチ 1,000〜2,000円 / ディナー 2,000〜3,000円
アクセス
横浜市営地下鉄ブルーライン 阪東橋駅 徒歩5分 / 伊勢佐木長者町駅 徒歩6分
予約
開店時間のみ予約可。基本は来店順
席数
26席(カウンター10、テーブル16)