「広島といえば?」と聞かれたら、多くの人がお好み焼きと答えるだろう。でも実際に広島を食べ歩いてみると、この街の食の奥行きに驚くことになる。瀬戸内海の牡蠣、宮島の穴子飯、いつの間にかソウルフードになった汁なし担々麺、そして帰り際にどうしても手が伸びるもみじ饅頭——。

広島の食は、ひとつひとつに「なぜこの街で生まれたのか」という理由がある。気候、地理、歴史、人。それを知ると、ただの観光グルメが「旅の体験」に変わる。広島を食で旅してみよう。

お好み焼き——戦後の焼け野原が生んだ「重ね焼き」

鉄板の上で焼かれる広島風お好み焼き
広島のお好み焼きは「混ぜる」のではなく「重ねる」。この構造に歴史がある

広島のお好み焼きが関西風と決定的に違うのは、その構造にある。生地と具を混ぜ合わせるのではなく、薄い生地の上にキャベツ、もやし、豚肉、そば(または うどん)、卵を層にして重ねていく。この「重ね焼き」スタイルには、戦後の広島の記憶が刻まれている。

1945年、原爆で焼け野原になった広島。復興の過程で、屋台や露店で「一銭洋食」と呼ばれる薄いクレープ状の食べ物が広まった。小麦粉は貴重品だったから、少ない生地を薄く伸ばし、代わりに大量のキャベツやもやしを山盛りにして焼いた。物資が乏しい中で「お腹いっぱいになれるもの」を追求した結果が、あの分厚い重ね焼きだったのだ。

やがてそば玉が加わり、ソースが決め手となり、現在の広島風お好み焼きが完成する。今では市内に2,000軒以上のお好み焼き店があるとされ、人口あたりの店舗数は全国トップクラスだ。

みっちゃん総本店 八丁堀本店

エリア
八丁堀(広島電鉄 八丁堀駅 徒歩4分)
名物
元祖広島お好み焼き「そば肉玉子」
一言
昭和25年創業。広島風お好み焼きの元祖とされる名店。創業者・井畝満夫氏が「お好み焼き」の名を広めたとも言われる

薬研堀 八昌

エリア
薬研堀(広島電鉄 銀山町駅 徒歩5分)
名物
そば肉玉(二黄卵使用)
一言
ミシュランガイド掲載、食べログ百名店。20〜30分かけてじっくり焼き上げる、炭火の熱で仕上げる至高の一枚

電光石火 駅前ひろば店

エリア
広島駅南口(JR広島駅 徒歩3分)
名物
ドーム型お好み焼き「電光石火」
一言
ふわふわのキャベツを球体に仕上げた創作系。食べログ百名店選出。イカ天と大葉が絶妙のアクセント

汁なし担々麺——21世紀に生まれた広島の新名物

武蔵坊の汁なし担担麺
花椒の痺れとラー油の辛さが混ざった中毒性のある一杯。広島の新名物・汁なし担々麺

広島のソウルフードといえばお好み焼き。だが、21世紀に入ってもうひとつの名物が台頭してきた。汁なし担々麺だ。

2001年、広島市中区舟入に「きさく」が開業。中国・四川省の担担麺(タンタンメン)をルーツに、スープを排して麺とタレだけで勝負するスタイルを広島に持ち込んだ。花椒(ホアジャオ)の痺れとラー油の辛さが混ざった中毒性のある味は、瞬く間に広島の若者を虜にした。

その後、2009年に「くにまつ」が八丁堀に開業し、広島駅構内にも進出。そして「毎日食べても飽きない一杯」を追い求める武蔵坊が加わり、広島は「汁なし担々麺の街」としての地位を確立していく。わずか20年余りで郷土食にまで昇りつめた、異例のスピードだ。

きさく

エリア
舟入(広島電鉄 舟入川口町駅 徒歩1分)
名物
汁なし担担麺(辛さ・痺れ選択可)
一言
2001年開業、広島汁なし担々麺の元祖。本場四川の味を日本に適応させた発祥の店。食券制

汁なし担担麺 武蔵坊

エリア
横川(JR横川駅 徒歩5分)
名物
汁なし担担麺(山椒の種類が選べる)
一言
多彩な山椒を自分で選ぶスタイル。「毎日食べたい」と思える、中毒性と優しさが共存する一杯

中華そば くにまつ

エリア
八丁堀(広島電鉄 八丁堀駅 徒歩2分)
名物
汁なし担担麺
一言
2009年創業。花椒の刺激とラー油の辛味が絶妙。広島駅にはくにまつ+武蔵坊のコラボ店も

牡蠣——全国の6割を育む、瀬戸内海の恵み

広島産の殻付き牡蠣
ぷりっとした身に瀬戸内の旨味が凝縮。広島県は全国の牡蠣生産量の約6割を占める

広島県の牡蠣生産量は全国の約6割を占める。なぜ広島なのか。答えは地理にある。

瀬戸内海は日本有数の穏やかな内海だ。波が静かだから筏(いかだ)を浮かべての養殖に適している。そしてもうひとつの決定的な要因が、太田川をはじめとする複数の河川が運ぶ豊富な栄養分だ。山から流れ込む淡水と海水が混ざり合う汽水域は、牡蠣のエサとなる植物プランクトンが豊富に育つ。この「穏やかな海」と「豊かな川」の組み合わせが、広島を日本一の牡蠣産地にした。

広島の牡蠣養殖の歴史は450年以上前にさかのぼるとされる。天文年間(1530年代)に草津(現在の広島市西区)の海岸で始まったという記録が残っている。以来、広島の人々は瀬戸内海の恵みとともに暮らしてきた。

かき船かなわ

エリア
平和公園近く(広島電鉄 原爆ドーム前駅 徒歩5分)
名物
かき料理フルコース、焼きがき、かきフライ
一言
創業150年超の老舗。元安川に浮かぶ「かき船」で味わう牡蠣料理は格別。自社養殖の牡蠣を使用

牡蠣屋

エリア
宮島 表参道商店街(宮島桟橋 徒歩5分)
名物
焼きがき、かきめし、かきフライ
一言
宮島唯一の牡蠣料理専門店。ミシュランガイド掲載。牡蠣がなくなり次第閉店のため早めの来店を

穴子飯——宮島の潮流が育てた、明治生まれの駅弁

宮島といえば厳島神社。だが食通にとっては「穴子飯」の聖地でもある。

宮島周辺の瀬戸内海は潮流が速い。この激しい海流の中で育った穴子は身が引き締まり、脂がほどよく乗る。この良質な穴子に目をつけたのが、宮島口で旅館を営んでいた上野他人吉だ。1901年(明治34年)、山陽本線の宮島口駅で「あなごめし弁当」の販売を始めた。穴子のアラで炊いたご飯の上に、秘伝のタレで焼き上げた穴子をぎっしりと並べる。冷めても美味しいように工夫された駅弁は、たちまち評判を呼んだ。

それから120年以上。宮島口の「うえの」は今も行列が絶えない。対岸の宮島島内では「ふじたや」がミシュラン一つ星を獲得し、穴子飯のもうひとつの頂点を示している。

あなごめし うえの

エリア
宮島口(JR宮島口駅 徒歩1分)
名物
あなごめし(店内)、あなごめし弁当(持ち帰り)
一言
明治34年創業、穴子飯発祥の店。穴子のアラで炊いた飯と秘伝のタレが120年以上変わらない味を守る

あなごめし ふじたや

エリア
宮島島内(宮島桟橋 徒歩15分)
名物
あなごめし
一言
明治35年創業。ミシュラン一つ星獲得。注文を受けてから焼き上げる穴子は、ふっくらと香ばしい。午後には売り切れることも

もみじ饅頭——宮島の紅葉が和菓子になった日

広島土産の定番中の定番、もみじ饅頭。その誕生には、ひとつの説がある。

明治時代、宮島の旅館「岩惣」に伊藤博文が訪れた際、紅葉谷の美しいもみじを眺めながら「この紅葉を食べられたらいいのに」と冗談を言った——。この逸話をもとに、和菓子職人がもみじの葉の形をした饅頭を考案したとされている。真偽はさておき、宮島の紅葉がこの菓子のインスピレーションであることは間違いないだろう。

現在、広島県内のもみじ饅頭メーカーは数十社にのぼる。こしあん、つぶあんに始まり、クリーム、チョコレート、チーズ、抹茶——バリエーションは際限なく広がっている。近年は「揚げもみじ」や「生もみじ」といった進化系も人気だ。にしき堂の「生もみじ」はもちもちとした食感が評判で、広島土産の新定番になりつつある。

にしき堂 光町本店

エリア
広島駅新幹線口(JR広島駅 徒歩5分)
名物
もみじ饅頭、生もみじ
一言
広島を代表するもみじ饅頭メーカー。「生もみじ」はもちもち食感が人気の新定番。ekie店も便利

やまだ屋 宮島本店

エリア
宮島 表参道商店街(宮島桟橋 徒歩5分)
名物
もみじ饅頭、桐葉菓(とうようか)
一言
1932年創業の老舗。宮島本店では手焼き体験もできる。看板商品「桐葉菓」は広島通の定番手土産

瀬戸内の気候と歴史が、広島の「食の地図」を描いた

瀬戸内海の穏やかな海と島々
温暖で穏やかな瀬戸内海。この海と山と川の交差点が、広島の食文化の土台を作ってきた

広島の食文化を俯瞰してみると、ひとつの構造が見えてくる。それは「海と山と川の交差点」だ。

南には瀬戸内海が広がり、牡蠣、穴子、小イワシ、タコといった海の幸をもたらす。北には中国山地が連なり、比婆牛やジビエ、山菜、きのこを育む。その間を太田川のデルタが繋ぎ、6つの川が市内を流れる水の都を形成している。

気候もまた、食に大きな影響を与えている。瀬戸内式気候は温暖で降水量が少ない。レモンの生産量が日本一なのは、この気候のおかげだ。実は広島県はレモン以外にも、ネーブルオレンジやみかんの産地でもある。温暖な島嶼部の日当たりのよい斜面が、柑橘類の栽培に適しているのだ。

そして、広島の食文化を語るうえで避けて通れないのが、1945年の原爆投下と、そこからの復興の歴史だ。お好み焼きが「重ね焼き」になったのは、物資不足の中で生まれた知恵だった。焼け野原から立ち上がる人々が、わずかな材料で満腹になれる食べ物を求めた結果、この街だけの食文化が生まれた。広島のお好み焼きには、復興の記憶が焼き込まれている。

KOTOHAREの視点:広島の食は、瀬戸内海の穏やかさと、戦後復興のたくましさ、両方でできている。牡蠣と穴子は450年の海の歴史を、お好み焼きは80年の街の記憶を、汁なし担々麺は21世紀の挑戦を、それぞれ背負っている。食べるたびに「なぜここで生まれたのか」がわかる——それが広島を食で旅する醍醐味だ。

買って帰る——広島の味を自宅でも

旅の余韻を自宅で楽しむのも、食で旅する醍醐味のひとつだ。広島には持ち帰りたい味がたくさんある。

宮島口の「うえの」のあなごめし弁当は、冷めても美味しいように設計された駅弁の傑作だ。JR宮島口駅のすぐ目の前で購入できるので、帰りの新幹線のお供に最適だろう。

牡蠣は冬場(11月〜3月)なら産地直送のお取り寄せがおすすめだ。殻付き牡蠣をそのまま焼くだけで、瀬戸内の海の味が自宅に広がる。かなわや大越水産など、老舗の養殖業者がオンラインショップを運営している。

もみじ饅頭は広島駅のekie(エキエ)でほぼすべてのメーカーの商品が揃う。にしき堂の「生もみじ」、やまだ屋の「桐葉菓」あたりは、定番のもみじ饅頭とはひと味違う手土産として喜ばれるはずだ。

🦪 広島の牡蠣をお取り寄せ

広島G7サミットで提供された江田島産の牡蠣。瞬間冷凍むき身1kgで、自宅で広島の海の味を。

ふるさと納税で応援する

広島の食文化を「食べて応援」するなら、ふるさと納税という選択肢もある。

広島県や廿日市市、呉市などへのふるさと納税では、殻付き牡蠣、あなごめし、もみじ饅頭、広島レモン、比婆牛などの返礼品が充実している。特に冬場の殻付き牡蠣は、寄付額に対するボリュームも申し分ない。

食べて美味しく、税控除も受けられて、産地の応援にもなる。広島への旅の前後に、ふるさと納税で味の予習・復習をしてみるのも楽しいだろう。

🏠 ふるさと納税で広島を旅する

廿日市市への寄付で、宮島周辺の宿泊に使える楽天トラベルクーポンが届く。食の旅の拠点に。

行って食べる——店舗情報まとめ

この記事で紹介した店舗の情報をまとめた。営業時間や定休日は変更になる場合があるので、訪問前に公式サイトやSNSでの確認をおすすめする。

🔥 お好み焼き

みっちゃん総本店 八丁堀本店

📍 広島県広島市中区八丁堀6-7 チュリス八丁堀1F

🕐 11:00〜15:30 / 17:00〜21:00

🚫 火曜定休(祝日の場合は翌水曜)

薬研堀 八昌

📍 広島県広島市中区薬研堀10-6

🕐 16:00〜22:30(日曜 〜21:00)

🚫 月曜定休(祝日の場合は翌日)、第1・3火曜

電光石火 駅前ひろば店

📍 広島県広島市南区松原町10-1 フルフォーカスビル6F

🕐 10:00〜23:00(L.O.22:00)

🚫 年中無休

🌶️ 汁なし担々麺

きさく

📍 広島県広島市中区舟入川口町5-13 佐々木ビル

🕐 11:00〜14:00 / 18:00〜19:00(日曜は昼のみ)

🚫 水曜定休

汁なし担担麺 武蔵坊 本店

📍 広島県広島市西区横川町3丁目10-16

🕐 店舗にお問い合わせください

🚫 店舗にお問い合わせください

🌐 公式サイト

中華そば くにまつ 八丁堀本店

📍 広島県広島市中区八丁堀8-10 清水ビル1F

🕐 平日 11:00〜15:00 / 17:00〜20:00

🚫 土曜・日曜定休

🦪 牡蠣

かき船かなわ

📍 広島県広島市中区大手町1丁目地先(元安川沿い)

🕐 11:00〜14:30 / 17:00〜22:00(L.O.20:00)

🚫 年中無休(年末年始除く)

牡蠣屋

📍 広島県廿日市市宮島町539

🕐 10:00〜16:00頃(牡蠣がなくなり次第閉店)

🚫 不定休

🐟 穴子飯

あなごめし うえの 宮島口本店

📍 広島県廿日市市宮島口1-5-11

🕐 9:00〜19:00(L.O.18:30)※水曜はお弁当のみ(〜18:00)

🚫 年中無休

あなごめし ふじたや

📍 広島県廿日市市宮島町125-2

🕐 11:00〜17:00(L.O.16:00)※売り切れ次第閉店

🚫 不定休

🍁 もみじ饅頭

にしき堂 光町本店

📍 広島県広島市東区光町1-13-23

🕐 9:00〜18:00

🚫 年中無休

やまだ屋 宮島本店

📍 広島県廿日市市宮島町835-1

🕐 9:00〜19:00

🚫 年中無休

広島の食は、一度の旅では到底食べきれない。でも、だからこそ何度でも行きたくなる。次に広島を訪れるとき、お好み焼きのキャベツの向こうに戦後復興の歴史が見えたら、牡蠣の一粒に450年の瀬戸内海が感じられたら——きっと、ただの旅行が「食の旅」に変わるはずだ。