母の日に何を贈るか、毎年悩んでいないだろうか
5月の第2日曜日が近づくと、決まって同じことを考える。「今年の母の日、何を贈ろう」。花屋の店頭にカーネーションが並び始め、デパートの催事場には「母の日ギフト特集」のポップが立つ。わかっている。そろそろ決めなければ、と。
結局、去年と同じようにカーネーションの花束を選ぶ。あるいはハンドクリームやエプロン、ちょっとしたアクセサリー。悪くはない。でも、心のどこかで「これでよかったのだろうか」と思っている自分がいる。
母の日ギフト市場は年間約1,300億円規模と言われている。そのうち花が占める割合はおよそ6割。カーネーションは母の日の代名詞であり、もはや「定番すぎる定番」だ。
ところが、興味深い調査がある。母親世代に「本当にもらって嬉しいもの」を聞くと、花よりも「食品・スイーツ」が上位に来ることが多いのだ。ある調査では、50代以上の女性の約4割が「食べ物のギフトが一番嬉しい」と回答している。贈る側と贈られる側の間に、小さなズレがある。
花は美しい。でも、枯れる。雑貨は素敵だ。でも、使わないまま棚に置かれることがある。一方、「おいしかった」という記憶は、ずっと残る。「あのとき子どもがくれたお菓子、おいしかったのよ」——そんなふうに、何年経っても語られるギフトがある。食べ物には、その力があるのだ。
花束が届いた翌日、母は何をしているか
カーネーションの花束が届いた日、母は嬉しそうに花瓶に活ける。写真を撮って、LINEで「ありがとう」と送ってくれる。ここまでは完璧だ。でも、3日後にはどうだろう。花は少しずつ萎れ始め、1週間もすれば処分のタイミングを気にしている。
花の定番化が進んだことで、「差別化」が難しくなっている現実もある。どの花屋も似たようなアレンジメントが並び、贈る側は「他の人と被っていないだろうか」と不安になる。3,000円の花束と5,000円の花束の違いを、贈る側も贈られる側も正直よくわからない。
消費トレンドとして、「モノより体験」を重視する流れはもう何年も続いている。食は、その最たるものだ。ただ胃を満たすだけではなく、「食べる時間」そのものが体験になる。おいしいものを開封する瞬間のワクワク感、一口食べたときの驚き、家族と「これおいしいね」と言い合う時間。食のギフトには、そのすべてがセットで入っている。
もうひとつ、見逃せないポイントがある。母親世代は「自分では買わないけど、もらったら嬉しい」ものに弱い。日常の買い物では「もったいない」と手を伸ばさない高級食材や、存在は知っているけれどわざわざ取り寄せるほどではないもの。そういうものが届いたとき、母はちょっとだけ特別な気持ちになる。
「食を贈る」ということは、「一緒に食べる時間」を贈ることでもある。母の日に届いたスイーツを、父と半分こして食べる。孫と一緒にアイスを分け合う。そうした何気ない時間が、花束よりも長く記憶に残ることがある。
「喜ばれる食ギフト」には法則がある
とはいえ、食べ物なら何でもいいわけではない。スーパーで買えるお菓子の詰め合わせでは、さすがに味気ない。母の日に贈って本当に喜ばれる食ギフトには、実は3つの法則がある。
1つ目は、「自分では買わないもの」であること。日常の延長線上にあるものでは、特別感が出ない。いつも飲んでいるインスタントコーヒーではなく、産地指定のスペシャルティコーヒー。いつも使っている醤油ではなく、木桶で3年仕込んだ天然醸造の醤油。「日常のちょっと上」にあるものが、ギフトとしての価値を持つ。
2つ目は、「手間なく食べられるもの」であること。これは意外と見落としがちだ。高級食材を贈っても、調理が必要だと「嬉しいけど、どう使えばいいかわからない」となることがある。母の日は、母に楽をしてもらう日でもある。開封してすぐ食べられるもの、温めるだけで完成するもの、切るだけで食卓に出せるもの。その気遣いが、ギフトの満足度を大きく左右する。
3つ目は、「誰かに話したくなるストーリーがあるもの」だ。「これ、国産はちみつなんだけど、日本の自給率って6%しかないんだって」「この七味、京都の老舗が380年作り続けてるらしいよ」。そうした一言が添えられると、食べ物はただの消費財ではなくなる。物語が加わることで、食べる時間に奥行きが生まれる。
喜ばれる食ギフトの3条件——①自分では買わないもの ②手間なく食べられるもの ③「誰かに話したくなる」ストーリーがあるもの。この3つが揃うと、食べた記憶が長く残る。
逆に言えば、この3条件を満たさないギフトは「嬉しいけど、来年には忘れている」で終わりやすい。せっかく贈るなら、「あのとき、あなたがくれたあれ、おいしかったのよ」と何年も言われるものを選びたい。
母の日に届けたい、5つの「おいしい物語」
KOTOHAREがこれまで取材してきた中から、母の日にぴったりの食ギフトを5つ選んでみた。どれも「自分では買わない」「手間がかからない」「ストーリーがある」の3条件を満たすものばかりだ。
1. 国産はちみつ——日本で流通しているはちみつの約94%は輸入品。国産はちみつの自給率はわずか6%しかない。アカシア、みかん、そば、百花蜜——花の種類によって味が全く異なる国産はちみつは、毎朝のトーストやヨーグルトをちょっとだけ贅沢にしてくれる。養蜂家が一瓶一瓶手作業で採取したはちみつには、土地と季節の物語が詰まっている。
2. 高級だしパック——毎日の味噌汁に使うだしを変えるだけで、食卓が変わる。だしパックの世界は奥が深く、鰹節、昆布、あご、椎茸など素材の組み合わせで無限の味が生まれる。「いつもの味噌汁が、なんか違う」。その小さな感動を毎朝届けられるギフトだ。パックをポンと入れるだけだから、手間もかからない。
3. クラフトビールや日本酒——お酒を飲む母なら、小さな醸造所が丹精込めて造ったクラフトビールや地酒はどうだろう。人口3,000人の町の醸造所が世界大会で金メダルを獲ったり、家族4人で守り続ける酒蔵があったり。ラベルの裏側にある物語ごと贈れるのが、小規模醸造のお酒の魅力だ。
4. ご当地スイーツ——地方の小さな菓子店が作る、その土地でしか買えないスイーツ。百貨店には並ばないけれど、地元の人にはずっと愛されている味。チーズケーキ、プリン、どら焼き、カステラ。「こんなお店があるんだ」という発見ごと届けられるのが、ご当地スイーツの良さだ。
5. ちょっといい調味料セット——京都・信州・江戸の三大七味や、柑橘の香りが豊かなポン酢、天然醸造の味噌など。毎日の料理に使えるから、「もったいなくて使えない」という事態にならない。日常のど真ん中にそっと入り込んで、食卓の味を底上げしてくれる。料理好きな母なら、きっと喜ぶ。
最高のギフトは、「一緒に食べる時間」かもしれない
ここまで「贈る食」について書いてきたが、最後にひとつ、別の選択肢を提案したい。物を贈る代わりに、一緒に食べに行くという方法だ。
日本人は昔から、人生の節目を「食べる」ことで刻んできた。卒業式の帰りの寿司、送別会の居酒屋、合格祝いのカツ丼。その日に何を食べたかが、何年も経ってから不思議と記憶に残る。母の日も同じだ。「あの年の母の日、一緒にイタリアンに行ったよね」——その記憶は、どんな花束よりも長持ちする。
食卓には、言葉以前の力がある。向かい合って「ありがとう」と改まって言うのは照れくさくても、一緒にごはんを食べながらなら、自然と感謝の気持ちが伝わる。横に並んで同じものを食べる時間が、言葉にできない何かを伝えてくれる。
高級レストランである必要はない。近所のカフェでもいいし、母が「一度行ってみたい」と言っていた店でもいい。大切なのは、「あなたのために時間を作りました」というメッセージが伝わること。忙しい日常の中で、母のためだけに確保した2時間は、5,000円の花束より重い。
母の日にカーネーションを贈るのは素敵だ。何十年も続いてきた定番には、定番の良さがある。でも、もし今年は少し違うものを贈りたいと思っているなら、「これ、おいしいから食べてみて」の一言を添えてみてほしい。その言葉が、花束よりも長く残ることがある。
あるいは、電話一本でいい。「母の日に、一緒にごはん食べに行かない?」。それだけで、母の5月はちょっとだけ明るくなる。