夏が来た。コンビニの冷凍ケースの前でクーリッシュを一本つかみ、キャップを外して、ずずっと吸い込む——あの「片手で飲むアイス」の記憶を持つ人は、きっと多いと思う。スプーンもいらず、歩きながらでも飲めて、少し溶けたくらいがちょうどいい。あれは夏の携行食だった。
そのクーリッシュが、いつのまにかお酒になっていた。
ロッテが発売した『クーリッシュ フローズン レモンサワー』と『クーリッシュ フローズン グレフルサワー』は、アルコール分5%の、れっきとしたお酒だ。品目は「リキュール」、内容量は140ml、価格はオープンプライス。かつて「飲むアイス」だったクーリッシュが、「食べる酒」へと越境した。いわば、クーリッシュ改め「クーリッ酒」の誕生である。
「飲むアイス」だったクーリッシュを、覚えているか
そもそもクーリッシュとは何だったのか。ロッテが"飲むアイス"クーリッシュを世に出したのは2003年のこと。通常のアイスクリームはマイナス15度、ソフトクリームはマイナス5度で提供されるが、その中間のマイナス8度に着目し、「シェイクのように吸って飲めるアイス」を作った。チアパック(パウチ)容器に詰め、キャップを開ければ、いつでもどこでも片手で飲める。
これは地味に発明だった。アイスは「スプーンで食べるもの」「立ち止まって食べるもの」「溶けたら負けるもの」という常識を、クーリッシュは全部ひっくり返した。溶けても飲めるし、歩きながらでもいい。「食べる」と「飲む」の、ちょうど真ん中を突いた独自ポジション。翌2004年にはパリの国際見本市「世界ヒット商品コンクール」で三冠を獲得している。
正直に言うと、筆者は長らくクーリッシュを「ちょっと変わったアイス」くらいにしか思っていなかった。でも改めて振り返ると、これは「境界を突く」という一貫した思想を持ったブランドだったのだ。そして今回のフローズンサワーは、その"境界を突くDNA"を、そっくりそのまま受け継いでいる。アイスと飲料の間を突いたブランドが、今度はアイスと酒の間を突いてきた。血は争えない。
「アルコールスイーツ」という、新しい棚
この商品がユニークなのは、単なる「暑い日のクールダウン用チューハイ」ではないところにある。ロッテの新領域業務用営業部・山田雄吾氏は、この商品を「お酒とアイスが融合したアルコールスイーツという新カテゴリーの確立を目指す」と語っている。
ここには、発想の順序の逆転がある。ふつう菓子メーカーがお酒を出すと聞けば、「アイス屋さんがついにお酒に手を出した」と受け取ってしまう。でもロッテがやろうとしているのは、たぶんその逆だ。酒に踏み込むのではなく、"アイスで培った技術で、お酒を再発明する"。冷たさの設計、パウチの携帯性、口当たりの微細な調整——アイス屋が半世紀かけて磨いてきた武器を、丸ごと酒に持ち込んでいる。
「お酒」でも「アイス」でもなく、その間にある空白地帯に、新しい棚を作ろうとしている。THE DAYが「缶=酒」の常識を静かに壊しにきた話を以前この連載で書いたけれど、ロッテという会社は、こういう「カテゴリーの隙間」を見つけるのが本当にうまい。
凍った酒を、食べる。という新しい酔い心地
中身の話をしよう。フローズンサワーには、アイスのクーリッシュと同じように微細氷が入っている。だから冷たくて、シャリシャリとした食感がある。公式の言葉を借りれば「冷涼感がスピーディーに体全体に染み渡る、フローズン状態のお酒」だ。
これは「よく冷えた酒」とは似て非なるものだと思う。キンキンに冷やした缶チューハイが「冷たいお酒を飲む」体験だとすれば、こちらは「凍ったお酒を食べる」体験に近い。喉を通る前に、まず口の中で溶けていく。その分だけ、冷たさの持続が長い。40度に迫るようになった日本の夏に対する、ひとつの実直な回答のようにも見える。
ちなみにパウチには「これは冷凍酒です。一度溶けたものを再び凍らせると品質が変わります」という注意書きがある。溶けても飲めたアイスのクーリッシュとは、そこだけは作法が違う。凍った状態でこそ本領を発揮する、という一点において、これはやはりアイスの子どもなのだ。
なぜ、缶でもボトルでもなく「パウチ」なのか
容器がパウチであることにも、ちゃんと意味がある。公式によれば、パウチ型容器は「こぼれにくく、リキャップができ、持ち運びに便利」で、そのまま直接飲むことができる。缶でもボトルでもペットボトルでもない、この容器選択が効いている。
キャップを閉められる、ということは「一気に飲みきらなくていい」ということだ。グラスに注ぐ必要もない。ということは、飲む場所が一気に広がる。テーブルのある居酒屋やおうちだけでなく、屋外でも、移動中でも、片手がふさがっていても飲める。パウチは、飲む場所を解放する容器なのだ。ここでもまた、「片手で飲めるアイス」のDNAがそのまま生きている。
売られる場所が、この商品の物語を語っている
個人的にいちばん唸ったのが、売り場の選び方だ。この商品、どこで買えるのかを見ていくと、戦略がくっきり見えてくる。
まず野球場。ZOZOマリンスタジアムとMAZDA Zoom-Zoom スタジアム広島で、しかも立ち売り・売り子による限定販売。それから音楽フェス「ROCK IN JAPAN FESTIVAL 2026」、カラオケチェーン、スパリゾートハワイアンズをはじめとするレジャー施設。さらにAmazon・ロッテ公式楽天市場店・公式オンラインショップ・Yahoo!ショッピング店といったECと、カタログギフト。
並べてみると、共通点がわかる。これらはすべて「心が躍っている瞬間」の場所だ。ひいきのチームを応援している時間、好きなバンドの音が鳴っている時間、温泉やプールではしゃいでいる時間。スーパーやコンビニの棚で日用品として買わせるのではなく、"体験の現場"で手渡す。売り場そのものが、この商品のコンセプトを語っている。
じつはこの売り場は、いきなり降ってきたものではない。ロッテは2022年からテスト販売を続けてきた。屋外の野球場などで観戦客に売るうちに、「この冷たさが最高」「こんな商品を待っていた」という声が集まり、それが本格発売の原動力になったという。棚の理屈ではなく、現場の歓声から生まれた商品なのだ。
果実の苦みと、「自由なアレンジ」という遊び
味づくりも本格的だ。レモンサワー(果汁率9%)もグレフルサワー(果汁率19%)も、果肉・果皮をすりつぶした「コミュニテッド」素材を使っている。だから甘いだけでなく、ちゃんと苦みがある。フルーツを丸ごとかじったときの、あの奥行きだ。パッケージには「ウォッカベース」の表示もあり、飲み口は甘くても中身は本格派、というギャップがこの商品の芯になっている。
そして、ここがいちばんアイスらしいところなのだけれど、ロッテは公式に"アレンジ"を提案している。梅酒を注げばレモンサワーがカクテル風に、カンパリを合わせればグレフルサワーが大人の一杯に。アセロラドリンクを足したレモンサワーや、オレンジジュースを合わせたグレフルサワーは、まるでクリームソーダのようなフロート風になる。
「凍ったお酒に、好きなものを注いで、自分好みに崩す」。この遊び方は、どう考えてもアイスの発想だ。決まった正解を飲まされるのではなく、自分で味を作れる。アイスが持っていた"自由さ"と、お酒が持っている"楽しみ方"が、パウチの中でひとつに溶け合っている。
アイスと酒の間には、これまで誰も本気で渡ろうとしなかった境界線があった。クーリッシュはその線を、シャリシャリと軽やかに越えていく。今年の夏、球場のスタンドやフェスの芝生で"心躍る冷涼体験"を一度味わってしまったら、もう後戻りできないかもしれない。——ただし、その一線を越えるのは20歳になってから。楽しく、適量で。