セブンの冷凍ケースに、ベルギーの高級チョコが白くまと並んでいた
きっかけは、コンビニの冷凍ケースだった。セブン-イレブンのアイスの棚に、「白くまの贅沢チョコレート」という商品が並んでいる。監修しているのは、あのゴディバだ。ベルギー生まれの高級チョコレートブランドと、昭和の夏を代表する庶民の氷菓「白くま」。この二つが、ひとつのカップの中で手を組んでいた。
正直に言うと、筆者はこれを店頭で見て、思わず二度見した。ゴディバといえば、デパートの1階、ガラスケースの向こうで一粒ずつ恭しく売られているイメージだ。それが、練乳とみかんの白くまと並んでいる。値段は税込496円。コンビニのアイスとしては強気だが、ゴディバとしては驚くほど手が届く。
この一杯、ただの話題づくりのコラボではない。たどっていくと、鹿児島の一軒の店から始まり、九州のメーカーが全国に広げた、70年以上にわたる氷菓の物語に行き着く。今日は、その道のりを追いかけたい。
そもそも白くまとは何か。発祥は鹿児島・天文館とされる
白くまとは何か。ざっくり言えば、削った氷に練乳をたっぷりかけ、みかんやパイン、さくらんぼ、あずきなどを彩りよくのせた氷菓のことだ。ふわりと崩れる氷に、練乳のやさしい甘さ。九州で夏を過ごした人なら、この一皿にひとつやふたつ、思い出があるだろう。
では、いつ、どこで生まれたのか。ここは慎重に書きたい。発祥には諸説あり、一つに断定できないからだ。
もっともよく知られているのが、鹿児島市の繁華街・天文館にある「むじゃき」を本家とする説である。同店によれば、創始者が戦後まもない昭和20年代に考案し、昭和24年ごろに売り出したという。天文館むじゃきの白熊は、今も名物として全国から客を集めている。
一方で、それ以前から、鹿児島市内の綿屋が夏の副業としてかき氷を出していた、という説も伝わる。どちらが「最初の一杯」なのかを言い切る証拠は、なかなか揃わない。はっきりしているのは、白くまが鹿児島という土地で育った氷菓だ、ということだ。諸説あること自体が、地元にどれだけ深く根づいた食べ物かを物語っている。
余談だが、筆者が子どものころに食べていたのは、スーパーで売っているカップの白くまだった。天文館の本家を知ったのは、ずいぶん後のこと。「あの素朴なカップにも、こんな由緒があったのか」と、少し姿勢を正した記憶がある。
なぜ練乳とフルーツなのか。名前の由来は「上から見た顔」
白くまの見た目には、ちゃんと意味がある。真っ白な練乳氷の上に、レーズンやさくらんぼ、緑色のアンゼリカなどを配する。これを上から見ると、動物の白熊の顔のように見える——というのが、名前の由来として最も知られている説だ。レーズンが目、といった具合である。
練乳とフルーツの組み合わせにも、時代の背景がある。冷蔵や物流がまだ十分でなかったころ、みずみずしい果物や濃厚な練乳は、それだけで少しぜいたくなものだった。ただ冷たいだけの氷に、練乳の甘みと果物の彩りを重ねる。白くまは、庶民が手に届く範囲で工夫した「小さなごちそう」だったのだと思う。
名前の由来にも細かな諸説はあるが、「白い山のような氷に、白熊を見た」という発想は共通している。食べ物に動物の顔を見て名づける。そのあたりの遊び心が、いかにも長く愛される定番らしい。
鹿児島のご当地氷菓が、全国のカップアイスになるまで
天文館で生まれた白くまは、長いあいだ「鹿児島に行かないと食べられないもの」だった。それが全国のスーパーやコンビニに並ぶようになったのは、九州のアイスメーカーたちの働きが大きい。
なかでも全国区への立役者とされるのが、福岡県久留米市の丸永製菓だ。同社は1972年に「白くま」の名を冠したアイスを世に出し、トロピカルフルーツやあずきを詰めたカップ氷菓として、九州を越えて広く売り込んでいった。鹿児島のセイカ食品も「南国白くま」で知られ、両社ともに九州のメーカーである。ご当地の氷が、冷凍ケースに乗って全国へ運ばれていったわけだ。
ここで覚えておきたいのが、この丸永製菓という名前だ。というのも、今回のゴディバとのコラボ「白くまの贅沢チョコレート」を実際に作っているのが、ほかならぬ丸永製菓だからである。白くまを全国に広げた張本人が、令和のコラボの製造を担っている。話は、きれいに一本の線でつながる。
鹿児島の一杯を全国に広げた丸永製菓が、その白くまでゴディバと手を組んだ。昭和の庶民の氷は、めぐりめぐって令和の高級チョコと同じカップに収まった。
白くま×ゴディバ。昭和の氷が、令和に高級チョコと並んだ
「白くまの贅沢チョコレート」は、セブン-イレブン限定で売られている。白くまらしい練乳氷とフルーツに、ゴディバ監修のチョコレートを重ねた一杯だ。庶民の氷菓の骨格はそのままに、そこへベルギーのチョコの記憶を差し込む。組み合わせの妙で勝負している。
発売の経緯も面白い。この商品がまず登場したのは2025年7月1日。関東の一部、近畿、九州という限られたエリアで、数量限定として売り出された。それがSNSを中心に評判を呼び、翌2026年6月30日から、販売エリアを全国へと広げた。地域限定のちょっとした挑戦が、1年をかけて全国区の候補になった、という流れである。数量限定という位置づけは変わらないので、気になる人は夏のうちに探すのがいいだろう。
背景には、ゴディバ側の事情もある。日本はゴディバにとって、北米に次ぐ大きな市場だといわれる。近年はデパートの高級路線だけでなく、コンビニで数百円のスイーツやアイスを次々に展開し、「手の届くぜいたく」としてブランドの裾野を広げてきた。その延長線上に、国民的な氷菓・白くまとの握手があった。高級チョコが庶民の氷に歩み寄り、庶民の氷が高級チョコと対等に並ぶ。歩み寄りは、両側から起きている。
ここで、実際に買って食べてみた感想を正直に記しておきたい。スプーンを入れると、まず氷のシャクシャクした軽さが来る。昔ながらの白くまらしい、練乳のやさしい甘さは、ちゃんと土台にいた。そこへゴディバのチョコが重なると、甘さの奥にビターな苦みがすっと立って、一気に大人びた顔になる。練乳とチョコ、合わないわけがないのだが、氷菓でここまでやるとは思わなかった。正直に言うと、496円という値段の意味が、ひと口で腑に落ちた。子どものころ食べたあのカップの白くまと、地続きの甘さ。それでいて、まるで別のごちそうだった。
個人的に、この一杯のいちばんの見どころは、味そのものよりも「白くまがゴディバと同じ土俵に立った」という事実のほうだと思っている。鹿児島の喫茶店で生まれ、九州のメーカーが全国に運び、令和になってベルギーの名門と肩を並べる。一杯のかき氷が歩いてきた距離を思うと、ちょっと胸が熱くなる。ちなみに、氷菓が境界線を越えていく話でいえば、アイスがそのままお酒になったクーリッシュの越境も面白い。夏の冷凍ケースは、いま静かに賑やかだ。
今年の夏、セブンの冷凍ケースの前で足を止めたら、白くまのカップを手に取ってみてほしい。練乳の甘さの向こうに、70年以上の時間が溶けている。九州の夏を氷菓でたどりたくなったら、南国の食を巡る沖縄の旅の話も、涼みがてらどうぞ。昭和の庶民の氷は、まだ物語の途中にいる。