定番の裏側 一皿の物語 食の旅日記
本八幡のとんかつバンブーの厚切りロースカツ
一皿の物語

本八幡のとんかつバンブー。自分史上のロースに出会った

2026.08.03 ・ 読了 6分 ・ 文:KOTOHARE編集部
🗾地方の名店を知る🍻飲み会で話したい雑学🏠おうちで楽しむ

本八幡という駅を、すっと思い浮かべられる人は、そう多くないかもしれない。都営新宿線の終点で、JR総武線も通る。千葉の、どちらかといえば地味な駅だ。筆者にとっては生活圏のひとつで、通い慣れた場所でもある。

正直に言うと、地元の駅というのは、分かった気になりやすい。どこに何があるか知っているつもりで、新しい店をわざわざ開拓しない。昼は結局、いつもの数軒をまわして終わる。そんな油断のなかに、この店はあった。

「とんかつ バンブー」。名前は前から知っていた。人気らしい、という話も、なんとなく耳に入っていた。それでも足が向かなかったのは、たぶん地元をなめていたからだと思う。名店は遠くにあるものだと、どこかで決めつけていた。休日の昼、妻と二人で、ようやく暖簾をくぐることにした。

本八幡、昼12時半。外の並びの先頭に立つ

着いたのは12時半すぎ。店の外には、すでに何人かの並びができていた。人気店だとは聞いていたが、なるほどこれか、と思う。

タイミングが良かった。ちょうど店内の案内が動いたところで、私たち夫婦がそのまま次の組の先頭になった。外で待ったのは10分ほど。じりじりと長く待たされる、という感覚はまるでない。順番は、すぐにやってきた。

本八幡・とんかつバンブーの外観
本八幡駅から徒歩5分。とんかつ バンブーの外観(写真は次回訪問時に撮影予定)

中に入って、まず目に入るのは、店主が一人で切り盛りしていることだった。いわゆるワンオペである。揚げて、盛って、運んで、会計する。それを一人でこなす店だと知って、正直、多少は時間がかかるのを覚悟した。この覚悟は、いい意味で裏切られることになる。

特選リブは売り切れ。ロースカツの一口目で、言葉が消えた

席についてメニューを開く。狙っていたのは特選リブだった。が、この日はすでに売り切れ。人気の一枚は、昼の半ばで姿を消していたらしい。小さく落胆したのは、否定しない。

気を取り直して、筆者はロースを頼んだ。妻は特選ヒレを選ぶ。注文を通してから、着丼までがまた早かった。ワンオペなのに、15分ほどで目の前にカツが並んだ。待たされた、という感覚がないまま、昼食が始まった。

一口食べて、言葉が消えた。とんかつで、ここまでの肉の柔らかさと、味の濃さに出会ったのは初めてだった。噛むというより、ほどける。そのほどけた先から、豚肉そのものの濃い味わいが立ちのぼってくる。

卓上にはソースもある。だが、この肉には塩コショウのほうが合う。そう気づいてからは、ずっと塩で通した。余計なものを重ねるより、肉の味をまっすぐ受け取りたくなる。そういう一枚だった。

妻が頼んだ特選ヒレも、一切れ分けてもらった。隣のヒレは上品な味わいで、ロースとはまた違う顔をしている。同じ店の、違う入り口だ。

特選リブでなくても、ロースでこれなのだ。十分すぎるほど、うまい。それでも――いや、だからこそ、次は必ず特選リブを食べる。心のなかで、静かにそう決めた。

ワンオペなのに、待たされない。本八幡バンブーの手さばき

食べながら、店主の動きをつい目で追っていた。一人なのに、無駄がない。揚げ油の前に立ち、頃合いを計り、次の仕込みへ手を移す。その流れに淀みがなく、見ていて気持ちがいい。着丼が早かったのは、この効率のたまものだろう。

しかも、店主は終始、愛想がいい。忙しないはずのワンオペで、これだけ穏やかな空気を保てるのは、なかなかできることではない。せかされる感じも、放っておかれる感じもない。心地よい時間が、静かに流れていた。

店の評判をあとで調べると、店主は元フレンチのシェフだと伝わっていた。厚切りの肉に低温でじっくり火を入れ、断面がほんのり桜色に仕上がるのが持ち味だという。あの柔らかさと濃さの理由の一端は、そのあたりにあるのかもしれない。もっとも、理屈を知らずとも、一口で「これはただ者ではない」と分かる味だった。

「美味しかったです」。宿題を一つ持ち帰る

会計を終え、店を出るとき、「美味しかったです」とだけ伝えた。飾らない一言だったが、それが今の正直な気持ちのすべてだった。最後まで、店主の穏やかな表情が気持ちよかった。

帰り道、妻と、次はいつ来るかを話していた。特選リブという宿題が、一つ増えたからだ。売り切れていたあの一枚を、次こそ食べる。地元の駅に、通う理由がまた一つできた。

名店は、遠くにあるとはかぎらない。いつもの駅の、いつもの通りの先に、自分史上最高かもしれない一枚が待っていることがある。灯台下暗し、とはよく言ったものだ。ちなみに、地元で通いたくなる一皿という意味では、横浜・阪東橋のアルペンジローの話も、どこか近いものがある。

とんかつバンブーのロースは、それを教えてくれた。次は、特選リブで。

KOTOHAREの視点:千葉・本八幡の「とんかつ バンブー」は、店主のワンオペながら手さばきに無駄がなく、着丼まで待たされない。厚切りのロースカツは肉の柔らかさと味の濃さが際立ち、ソースより塩コショウが似合う一枚だ。特選リブは昼の半ばで売り切れることもある。名店は遠くにあるとはかぎらない。地元の駅の先にこそ、自分史上の一皿は隠れている。

店舗情報

店名
とんかつ バンブー(BAMBOU/ばんぶー)
住所
千葉県市川市南八幡4-14-13
TEL
047-376-2000
営業時間
昼 11:00〜14:00(L.O. 14:00)/ 夜 17:00〜19:30(L.O. 19:30)※火曜は昼のみ
定休日
水曜・日曜
アクセス
本八幡駅 南口より徒歩5分
地図
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メニュー
特選リブロースかつ・特選ヒレかつ(各1,800円前後)、ロースかつ、ヒレかつ、かつ煮、ばんぶー特製メンチカツ など
備考
人気店のため、特選リブなど売り切れ次第終了の品あり。営業時間・メニュー・価格は変更の場合があるため、来店前に店の情報をご確認ください

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この記事を書いた人

KOTOHARE編集部

30代・食いしん坊の編集部員。コンビニの新商品から町の老舗まで、うまいものなら何でも食べる雑食派。今夜の晩酌のつまみを考えるのが日課です。

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