新宿駅西口から徒歩5分。超高層ビルが林立する西新宿のオフィス街、新宿センタービルの地下1階に、その店はある。看板には「あるでん亭」。店名がそのまま、この店のすべてを語っている。
1977年創業。半世紀近くにわたって、この場所で「本物のアルデンテ」を出し続けているパスタ専門店だ。ランチタイムになると、近隣のオフィスワーカーが列をなす。華やかさはない。流行りのカフェ風でもない。でも、この店のパスタを一度食べた人は、必ず戻ってくる。
「アルデンテ」という言葉を、日本人の多くは知っている。でも「本物のアルデンテ」を食べたことがある人は、意外と少ないかもしれない。
「硬い」のではない。「芯がある」のだ
あるでん亭のパスタを初めて食べた人の多くが、最初の一口で驚く。「硬い」と思う人もいるかもしれない。しかし、二口目、三口目と噛みしめるうちに気づく。これは硬いのではない。芯があるのだ。
イタリアで「アルデンテ(al dente)」とは、文字通り「歯に(対して)」という意味だ。歯で噛んだとき、中心にわずかな芯が残る状態。日本のファミリーレストランや多くのイタリアンで出てくるパスタは、この芯がない。柔らかく、もっちりとした食感。それはそれで日本人好みかもしれないが、あるでん亭が追求しているのは、そこではない。
小麦の香りが鼻に抜ける。噛むほどに味が出る。ソースとの絡みが絶妙で、最後の一本まで飽きない。それが本物のアルデンテだ。
たらこスパゲティという「発明」
あるでん亭の看板メニューは「たらこスパゲティ」だ。バターの香りとたらこの塩味、そしてアルデンテに茹で上げた麺の食感が三位一体となった一皿。シンプルだからこそ、ごまかしが効かない。
日本式パスタの代名詞ともいえる「たらこスパゲティ」。その発祥には諸説あるが、あるでん亭は間違いなく、この味を世に広めた立役者の一つだ。1977年の創業当時から提供し続けている。
ほかにも、ナポリタン、ミートソース、ペペロンチーノ——日本人が「パスタ」と聞いて思い浮かべる定番メニューが揃う。どれも派手さはない。でも、どれも「ここでしか食べられない」味がある。それは茹で加減という、目に見えない技術の差だ。
メニューを見ると「和風」と「洋風」が共存している。たらこ、しらす、明太子。カルボナーラ、ボンゴレ、ペスカトーレ。イタリアと日本のあいだで、あるでん亭は独自の道を歩んできた。
西新宿のオフィス街で、半世紀を生き抜くということ
西新宿という街は、飲食店にとって特殊な場所だ。平日のランチは黙っていても客が来る。しかし、土日は人が激減する。景気の波、テナント料の高騰、近隣の再開発。この半世紀、西新宿の地下で何軒の飲食店が消えていっただろう。
あるでん亭が生き残れた理由は、おそらく「変わらなかった」からだ。流行りのパスタを追いかけるでもなく、映えを意識するでもなく、ただひたすらに「アルデンテ」を守り続けた。店名に掲げた矜持を、一皿一皿で証明し続けた。
カウンターに座ると、厨房で麺を茹でる職人の手さばきが見える。大きな鍋でぐらぐらと沸いた湯。タイマーではなく、経験で見極める茹で上がり。この光景は1977年から、おそらくほとんど変わっていない。
「また来週」——日常の中にある贅沢
あるでん亭は、特別な日に行く店ではない。記念日ディナーでもなければ、デートの決め手でもない。月曜日から金曜日まで、毎日のランチに通う場所だ。
でも、だからこそいい。「また来週」と思える店が、自分の生活圏にあること。それは、ひとつの幸福のかたちだと思う。
新宿駅西口の地下道を歩いて、センタービルの地下に降りる。いつもの席に座って、いつものたらこスパゲティを注文する。最初の一口の、あの小麦の香り。1977年から変わらないアルデンテの食感。それだけで、午後の仕事を乗り切れる気がする。
東京で本物のアルデンテを食べたくなったら、迷わずこの店に行ってほしい。地下街の一角に、半世紀の矜持が詰まった一皿がある。
店舗情報
- 店名
- あるでん亭 新宿センタービル店
- 住所
- 東京都新宿区西新宿1-25-1 新宿センタービル B1F
- TEL
- 03-3348-1468
- 営業時間
- [月〜金] 11:00〜22:00 [土] 11:00〜20:00
- 定休日
- 日曜日・祝日
- アクセス
- JR新宿駅西口 徒歩5分 / 都営大江戸線 都庁前駅 徒歩3分
- 備考
- ランチタイムは混雑。14時以降が比較的空いている。