五反田のマンションの1階に、秋田犬の銅像が目印の居酒屋がある。目黒川沿いのひっそりとした立地。おしゃれなダイニングでも、チェーン居酒屋でもない。完全予約制で、メニューは「その日、店主が何を釣ったか」で決まる。

「おまつり本舗」。店名だけ聞くと祭りの屋台でもやっていそうだが、ここは知る人ぞ知る魚の聖地だ。食べログの口コミは100件を超え、保存数は8500件以上。それでも「一見では入りづらい」と言われる独特の空気がある。

居酒屋で「店主が自分で釣った魚」を出す店は、東京にどれくらいあるだろう。釣り好きの人は日本中にいるが、その魚をプロの料理として客に出す人は、ほとんどいない。

「居酒屋のあんこう鍋なんて」——その固定概念を壊す一杯

「居酒屋のあんこう鍋なんて」——そう思っている人にこそ、この店を知ってほしい。

外食であんこう鍋を食べたことがある人は多いと思う。たいていは「ちょっといい居酒屋の冬メニュー」レベルで、正直、感動するほどのものに出会うことは少ない。でもこの店は違う。青森の懇意な漁師から取り寄せる釣りもの活〆の鮟鱇を、店主自らが解体し、アン肝をたっぷりと土鍋に盛り付ける。鍋の蓋は「絶対にまだ開けるな」と言われる。焦らされること40〜50分、その間にお刺身を堪能する。やがて蓋を開けた瞬間の、あの香りと濃厚さ。居酒屋のあんこう鍋という概念が壊れる瞬間だ。

もう一つの名物が「痛風鍋」。生あん肝、真鱈の白子、生牡蠣がたっぷり山盛りの土鍋に、さらにウニをのせた狂気の一品。20年以上前から常連だけが知っていた裏メニューが、いつしかネットで話題になり、今では冬の予約が殺到するほどになった。

おまつり本舗の店内
五反田の目黒川沿いに佇む「おまつり本舗」。秋田犬の銅像が目印だ

店主が自分で釣っている——それが答えだ

なぜこの店の魚はこんなにうまいのか。答えは単純で、「店主が自分で釣っている」からだ。

おまつり本舗の店主は、休みの日になると新島沖や相模湾に船を出す。キンメダイ、クロムツ、ワラサ、マグロ——自分の手で釣り上げた魚を、低温で徹底管理し、その鮮度のまま客に出す。店内には大きなルアーが飾られ、壁にはクーラーボックスを満載にした釣行の写真。この人は本当に釣りが好きなのだと一目でわかる。

漁師から直接仕入れるルートも持っている。青森の鮟鱇、各地の旬の魚。中間業者を挟まず、自分の目と舌で選んだ魚だけが、この店のカウンターに並ぶ。

お刺身の盛り合わせには、子持ちイカ、ハガツオ、サワラ、クジラなど、派手さはないが間違いのない魚が並ぶ。「この日何が出るかは、来てみないとわからない」——それが常連を惹きつけて離さない理由でもある。

日本酒もすごい。十四代、田酒、磯自慢、鳳凰美田——全国の酒蔵から直接取り寄せた銘酒がずらりと揃う。「魚と日本酒」という日本の食の原風景を、ここまで純度高く体現している店は少ない。

五反田という街と、この店の不思議な相性

五反田はオフィス街だ。昼間は人で溢れ、夜はチェーン居酒屋のネオンが光る。華やかさとは無縁の、実務的な街。でも、だからこそこの店がここにある意味がある気がする。

観光地でもなく、グルメ激戦区でもない。「釣った魚を美味しく食べてもらいたい」という、ただそれだけの想いで20年以上続いてきた店。常連客の多くは近隣で働くサラリーマンや、口コミで辿り着いた魚好き、日本酒好きだ。

完全予約制、夕方以降は電話にも出られないほどの忙しさ、メニューはその日次第——不便と言えば不便だ。でも、その不便さが「特別な体験」になる。チェーン店のようにいつ行っても同じものが出てくる安心感とは真逆の、一期一会の食体験がここにはある。

冬のあんこう鍋や痛風鍋は11月から3月限定。春には鮮度抜群の生ホタルイカのしゃぶしゃぶ。夏は釣り上げたばかりの青物。季節ごとに違う顔を見せるこの店は、何度通っても飽きることがない。

「今日、何が釣れたんですか?」——最高のつまみは、会話

五反田に用事があるとき、あるいは、ちょっと特別な夜を過ごしたいとき。

「今日、何が釣れたんですか?」——カウンターでその一言を交わすだけで、この店の楽しさがわかる。釣りの話、魚の話、酒の話。店主との会話が、そのまま最高のつまみになる。

大切な人と静かに飲みたい夜にも、仲間とワイワイ鍋を囲む夜にも。35席の店内は、20名から貸切もできる。

「居酒屋でこんなに美味い魚が食べられるのか」——この驚きは、一度体験したら忘れられない。次の冬、あんこう鍋の予約が始まる前に、この記事を思い出してほしい。

KOTOHAREの視点:「自分で釣った魚を、自分の店で出す」。言葉にすれば単純だが、これを20年以上続けている人がいる。おまつり本舗に行くと、「美味しい」の手前にある「楽しい」に出会える。魚が好きな人が、魚を釣って、魚を捌いて、魚を食べてもらう。その循環の中に、食の一番幸せな形がある気がする。

店舗情報

店名
おまつり本舗
住所
東京都品川区西五反田1-29-3 五反田シティハイツ 1F
TEL
03-3492-5887
営業時間
[月〜金] 18:00〜24:00 [土] 19:00〜24:00
定休日
日曜日
アクセス
JR山手線 五反田駅西口 徒歩2分
食べログ
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備考
完全予約制。鍋類は前日までに要予約。